フォーリンアフェアーズ英語版~ダイジェストその6
「インドの腐敗問題」
インドのニューデリーで15日間にわたる市民集会が開かれている。猛暑の中で雨が降ったり、高い湿度の中で行われているのだ。背景には、政府の腐敗への批判がある。現在、インド議会は腐敗防止法案を審議しているが、一般の公務員を対象としたもので、これでは不十分であるという人々が集会に参加している。リーダーのハザレ氏は、先日まで政治犯として拘束されていたが、市民運動の高まりに圧される形で保釈を命じられた。しかし、ハザレはこの時、インド政府に市民集会への参加を認めさせている。ポリシーはガンジーの「非暴力不服従」だとされる。インドは民主主義国家であり、野党も存在する。野党とハザレ氏がどのように協力するかは不明だとされる。インドの近年の経済発展で、ビジネスにおける許認可権をめぐる汚職は確実に減っていたのだ。しかし、争点となったのが、インドの携帯電話会社が政府の特権を利用して同業他社を排除する価格設定をしたことや、1999年の印パ戦争の未亡人向けの高級住宅地を警察官に提供したりとか、あとは現場の警察官の間で横行している賄賂などがやり玉に挙げられた。もっと腐敗している国はあるだろうが、インド市民は、英国からの独立をした時に匹敵する第二の革命と呼んで運動しているのだ。問題は、腐敗防止法案の行方であり、これに政府が妥協するのかが争点となっている。また、この集会が必ずしも政権交代には結びつかない構図もあるとされる。現在の野党も政権をとっていた時期があり、必ずしも腐敗防止を積極的に掲げられる立場ではないのだ。
フォーリンアフェアーズ「インドの腐敗問題」
「デイヴィット・キャメロンとロンドンの暴動」
イギリスの暴動は5人の死者と、数百万ドルの損害をイギリスにもたらした。背景には、成立して一年半になるキャメロン政権の政策があるのは明らかだ。キャメロン政権は、自治を求める民衆に「大きな社会」という政策を打ち出して選挙に勝ったが、過半数には至らず、自由民主党との戦後初めての連立政権を組んだ。この「大きな社会」とは、隣人同士が助け合うことで、政府の予算の大幅削減を試みるものだった。キャメロンは警察官を1万6千人削減している。キャメロン政権はすぐには崩壊しないだろうが、数か月後にはかなり厳しい局面を迎えるとされている。自由民主党とは政策が異なる部分があり、個人主義に立脚する自由民主党も、昨年の地方選挙の成果が芳しくなかったことから、今すぐ下野することは考えにくい。暴動が起きた時に、警察は「個別の犯罪として検挙するのではなく、騒乱罪として扱う」と声明を出したことから、一気にロンドンは無法地帯と化した。キャメロンがロンドンに投入した警察官がまさに1万6千人だったのは皮肉だ。自由民主党は、暴動に参加してスーパーから飲料水を盗んだ学生を懲役刑に処したことなどを、「公正な司法ではない」と批判している。また、キャメロンは、貧困や福祉政策などが暴動の理由ではなく、各自のモラルの問題だ、と発言し、現状認識への批判の声が上がった。キャメロンは、地球温暖化の調査に北極を訪れるなど熱心な部分もあるのだが、内政問題に関しては、財源の制約もあり、予算削減という政策がこのような結果をもたらすことは、今後の日本にとっても貴重なデータとなるのは間違いない。隣人同士の助け合いというスローガンだけでは人間は動かないのだ。
フォーリンアフェアーズ「デイビッド・キャメロンとロンドンの暴動」
「9・11テロ回顧」
9・11テロがアメリカの外交政策のすべてを変えたと言われているが、10年経過して振り返ってみると、アメリカの覇権主義・単一性の志向・民主主義・自由市場の追求という文脈においては、単なる歴史の一ページに過ぎなかったのではないかとも言われるようになっている。では、9・11以前のアメリカの外交政策はいったいどのようなものだっただろうか。アメリカは「中国とロシア」を念頭に行動していた。そのうえで、中東政策をどのようにこの二つの国と絡めるのか、つまり、ミサイル防衛システムの構築が中東と密接に関わっていたのだ。さらには、イラン・イラク・リビア・北朝鮮などの「ならず者国家」との付き合い方も判断要素となっていた。バグダッドの「飛行禁止区域」で、米軍機が撃ち落されたらどう対応するのかなどを熱心に研究していたのだ。
国家安全保障委員会のリチャード・クラークはテロの危険性に警鐘を鳴らした人物だったし、CIA長官のジョージ・テネットも「事態は危険水域を超えた」と発言していたが、パウエル国務長官も、ラムズフェルド国防長官も、ライス補佐官も、さらにはブッシュ大統領もこのようなテロの危険性は認識していなかったのが真実だった。「オサマ・ビンラディンには誰も興味がなかった」のが真相だ。そういう意味では、たとえオバマもブッシュの外交方針の文脈に位置づけられるとしても、9・11テロの意味は動かしようがないと言える。
フォーリンアフェアーズ「9・11テロ回顧」
「避けることのできないスーパーパワー」
中国は超大国としてアメリカにとって代わるのだろうか? GDPや貿易収支、国家としての力量から考えれば答えはイエスだ。アメリカが考えている以上に、中国は巨大で、発展は速い。債権者は債務者に対しては独裁者のようにふるまう。債務を負った国家は今まではIMFを頼っていた。しかし、90年代のアジア通貨危機に対して、カンター通商代表は「脂ののったお肉」と呼んだ。なぜなら、アジア市場が一気にアメリカに開かれたからだ。1956年のスエズ危機では、イギリスがスエズ運河を制圧したが、アメリカが資金を大量にイギリスに流して撤退させた。このとき、イギリスは「我が国の覇権はこれで終わった。アメリカは200年後にこの屈辱を味わうだろう」と言った。アメリカは、自分たちはまだ発展すると考えており、中国をとりわけ傑出しているとは考えていない。また、中国は多くの問題を抱えすぎているとしている。いずれは、国際社会で役割を共有しなければならないだろうが、運転席まで奪われるとは誰も考えていないのが現状なのだ。
フォーリンアフェアーズ「避けることのできないスーパーパワー」
「カダフィ後のリビアの国家建設」
カダフィの没落が目の前に来ている。アメリカや同盟国は、リビアの国家建設にどのくらいの力が求められるだろうか。ボスニアやコソボ・イラク・アフガニスタンと比較してみよう。その際に、どのくらいの大きさをもった国なのか、どのくらいの富をもっているのか、どのような人種構成か、地政学的な分析、政治的な成熟などを視野に入れるのだ。国家建設というのは非常にエネルギーを集中させる作業だ。リビアはコソボやボスニアに比べれば2~3倍の大きな国であるが、イラクやアフガニスタンの三分の一程度だ。だいたい90年代のバルカン地方に注入したエネルギー程度であり、9・11テロ後の処理よりは時間や費用がかかる困難さだと言える。リビアは比較的豊かな国なのでこれらの国よりは経済の回復は速いだろう。また、言語もベルベル語を話すマイノリティーが1割ほどいて、西部や南部で自治を確立している。カダフィはこの国を「分割と支配」という手法で統治していたのだ。ボスニアやコソボ、アフガニスタンとの大きな違いは、国境で接する敵対的な国が存在しないということだ。これは大変有利に作用する。また、リビアはアラブ国家である以上、アラブの秩序にしたがった国家建設が求められる。西側諸国の軍事介入も空からの攻撃にとどまっており、ゲリラ戦などを展開しなくて済む。しかし、イタリアの戦前の支配から、立憲主義を経て、カダフィの独裁体制に入っており、政治的に成熟していないという点が問題だろう。東西に分かれてしまった軍事力・警察力を一つにする努力も必要だ。これらの事情を考えてみても、やはり民主主義を根付かせるには思ったよりは難しいことは覚悟する必要はある。
フォーリンアフェアーズ「カダフィ後のリビアの国家建設」
「アルカイダの窮地」
アラブの春は、独裁者が支配する国々に「イスラム国家」を樹立するチャンスを与えた。これはまさにアルカイダの悲願だったはずだ。かんがえてみれば、ソ連崩壊の時もこのチャンスはあった。しかし、アメリカがサダム・フセイン包囲網をアラブ諸国に敷いて、この地域に影響力を確立してしまったためその願いはかなわなかった。今回の、アラブの春ではイスラム国家の樹立がなされる可能性がある。しかし、事態はアルカイダの思惑とは異なる方向に向かった。政治参加をしたいイスラムのグループは、「爆弾より票を用いる」手法で国家を統治したいと考えているのだ。そうでなければアメリカの理解は得られない。たとえ、イスラム国家樹立という念願がかなったとしても、アメリカの影響力排除までは進まないのがこの地域の国家統治なのだ。
フォーリンアフェアーズ「アルカイダの窮地」
「イランはどうやってアサドの地位を守るか」
シリアのアサドが民衆の暴動に遭遇している。しかし、アサドの地位は、チュニジアやエジプト、リビアの指導者とは状況が異なるのだ。イランが、シリアを「アメリカとイスラエルからイランを守る最前線基地」と位置付けているからだ。そのために、イランは「イスラムを標榜し、民衆の支持があり、反米的運動ならあらゆる勢力を支持する」としながらも、シリアの民衆を「アメリカが、イラン・シリア・ヒズボラのラインを破壊しようとしている」として一切資金は流していない。それどころか、E-Mailや携帯電話などを監視するシステムをアサドに提供している。この「社会監視システム」の技術はイランが世界最高峰だとされ、中国よりも技術は上回っている。また、イランは、シリアの民衆に好意的な発言をしたヒズボラへの資金を止めたりもした。あらゆる手段を使って「アメリカとイスラエルからイランを守る最前線」を守ろうとしているのだ。もし、アサドが権力の地位を失い、シリアに新政権ができたら、イランはためらうことなく新政権とも良好な関係を築こうとするとされる。それほど重要な地域なのだ。
フォーリンアフェアーズ「イランはどうやってアサドの地位を守るのか」
![]() | Foreign Affairs /フォーリン・アフェアーズ (洋雑誌・定期購読 1780円x6冊 ) 販売元:ショッピングフィード ショッピングフィードで詳細を確認する |
« 諸外国の時間 | トップページ | フォーリンアフェアーズ英語版~ダイジェストその7 »
「フォーリンアフェーアズ英語版ダイジェスト」カテゴリの記事
- 世界の経済(2015.06.13)
- フォーリンアフェアーズ英語版~ダイジェストその13(2012.03.26)
- フォーリンアフェアーズ英語版~ダイジェストその12(2012.01.02)
- キムジョンウン~世界最悪の職業に就く(2011.12.31)
- フォーリンアフェアーズ英語版~ダイジェストその11(2011.11.12)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント