フォーリンアフェアーズ英語版~ダイジェスト2
「中国と特許の壁」
あなたのDVDプレーヤーの裏を見てみればわかるが、たいてい"Made in China"と書いてある。しかし、これらの技術はほとんどがアメリカや日本にあるので、中国は製造業の利益の半分をアメリカや日本に特許料として支払っている。しかし、現在の、原料価格高騰や、資源不足、人件費の値上がりを考えると、もはや中国は独自の技術開発をしなければ経済発展はないとされる。いままでは「トップダウン式」によって、巨大プロジェクトや、ナノテクノロジー研究、バイオテクノロジー研究、薬品開発を行うことができたが、これから独自の技術を開発するためには「ボトムアップ式」に切り替えることが政府レベルでも共有された考え方だ。中国は、技術の海外依存度を、21世紀の中ごろまでに現在の5割から3割までに減らす計画を立てている。また、国際社会に受け入れられるためには海賊版の規制も行わなければならない。中国も、最大の輸出国として知的財産の分野ではアメリカに妥協する方向を示しているが、官僚主義の支配するこの中国の今後を不安視するアメリカの政府関係者もいる。中国が西側諸国と透明性のある知的財産をめぐる仕組みの構築をしてくれれば、薬品開発の分野一つとっても人々の健康のためにプラスになるのだ。そのような仕組みの構築が望まれているところだ。「ディズニーランドは遠すぎる」などといって海賊版を作っているようではダメだということはもはや中国も認識しているのだ。
フォーリンアフェアーズ「中国と知的財産の壁」
「今、ドイツが強い」
ドイツが、製造業が好調で、中国に次ぐ世界で二番目の輸出国になった。東ドイツの統合後、ようやくドイツの経済が活況を呈し始めたのだ。アメリカが2007年から2011年の間に失業率が4・6%から9・0%になったのに対し、ドイツは8・5%から7・1%へと減っている。失業者も300万人を割ったのだ。輸出産業のドイツ経済に占める割合は三分の二にもおよび、今、ヨーロッパでもっとも経済力を充実させている国だと言える。
フォーリンアフェアーズ「ドイツの成功の秘密」
「アメリカ軍のリビア攻撃」
今年の4月にアメリカ軍は「アフリコム」というアフリカ遠征部隊を編成し、リビアにトマホークミサイルを110発を撃ち込むなどの「オデッセイの夜明け作戦」を展開した。しかし、北アフリカや、ソマリアのアルカイダの強烈な反発を受け、テロの報復の可能性が出てしまったのだ。ゲーツ国防長官は、そのためにイラクを訪問して事態の鎮静化を図ろうとしたが、この「オデッセイの夜明け作戦」がどのような結果をもたらすかは分からないのだ。
フォーリンアフェアーズ「アフリコムのリビア遠征」
「アフリカ周辺の海賊対策」
ナイジェリア沖で、商船が海賊に拘束され、フランス人船員やタイ人の船員が拘束される事件が起き、オバマ大統領が、アフリカの海賊対策の政策を発表した。世界の物資の流通の90%が海を通じて行われており、しかし、アフリカは利益の3%にも満たない。これは、アフリカの政治が海の可能性に無関心だったことが背景にあり、オバマは、アフリカの人件費の安さや物価の安さ、市場としての可能性などの潜在能力があるとし、港湾を整備して、海洋法を周知させれば、海賊にも仕事が与えられ、アフリカ周辺の安全の確保にもつながるのではないかと考えたのだ。アフリカの海の治安は悪く、沖の石油パイプラインから石油を盗んだり、漁船の違法操業、麻薬の密売などが行われるなど、問題は海賊にはとどまらないのだ。これらの問題も、アフリカの港湾整備、海洋法整備などを推進することでビジネスによる富を与えれば解決するとされ、国連やアメリカ、アフリカ連合などとともに、アフリカ海洋発展イニシアチブを立ち上げたところである。
フォーリンアフェアーズ「海賊から商業への転換」
「ドイツの移民問題の葛藤」
どの国も、自国の経済発展のために、高度な技術をもち高い教育を受けた外国人が必要であるという点には変わりはない。しかし、ドイツの移民問題を扱った著書「ドイツはドイツであることをやめるのか」という本がずっとベストセラーの地位を維持しているのだ。著者であるサラジン氏ががベルリンの財務担当であり、中央銀行のメンバーであることから、この本を一概に無視するわけにはいかないのだ。この本ではユダヤ人の「遺伝子」という言葉を使用したことから、サラジン氏は中道左派から追い出されてしまった。中道右派も態度を決めかねている。この著書の「多文化の共存政策は完全に失敗した」という見解に、ウルフ大統領もメルケル首相も批判的である。キリスト教民主同盟もこの著書を批判した。唯一、キリスト教社会同盟だけがこの著書を支持し「移民など必要ない」という見解に立っている。経済の発展のための労働力という見地と、民族統合政策は失敗だったのか、という指摘、その中で、著名な人物が書いた「移民の排斥」の論陣がベストセラーになり、しかし政治の現場からは批判が多い、という構図だろうか。
フォーリンアフェアーズ「ドイツの移民問題の葛藤」
「ヨーロッパユーロの守り方」
ヨーロッパ経済は、政治的失敗から危機に陥ることが多い。17か国からなるEUで1998年から通貨統合がなされたが、すべての国が同じ経済の安定性をもっているという前提がすでに壊れているため、もはやEUの拡大は困難になっているのだ。たとえば、ギリシャでは虚偽の財政に関する情報を公表したり、アイルランドも不安定な財政をもっていたりして、もはやドイツのような経済の安定性は持っていない。このことから、ヨーロッパ財政安定機構を設けて、今後数か月でギリシャは500億~1000億ユーロを受け取るとされ、これがもしスペインにまで波及したら6000億ユーロにまで達することが見込まれている。ヨーロッパ財政安定機構は7500億ユーロまでしかもっておらず、ポルトガル・アイルランド・ギリシャ・スペイン(PIGS)のすべての国の面倒は見れない。機構にはイギリスやフランス・ドイツなどの銀行が出資しているが、債券市場の安定というメリットがあるからお金を出しているのであって、不安定な財政を抱えた国をEUの領域内に抱え込むことは、EUの拡大がこれ以上は難しいことを端的に示している。
フォーリンアフェアーズ「ヨーロッパユーロの守り方~そしてEU」
「サウジアラビアとイエメンのジレンマ」
イエメンはアラブ諸国でも人口の多い国で2千4百万人が居住している。この国は部族単位で構成されているため、非常に政治は複雑に動いている。サウジアラビアのイエメン政策は「弱い国と位置付け、影響力を持つ」ということだった。しかし、若者がストリートで政治運動を始めたのだ。サレハ大統領は王宮の攻撃を受けて負傷してしまった。この複雑な政治体制をもつ国でサレハの入院は、民主化運動を激化させ、もし、サレハがこの地に復帰したら激しい内戦になるのは目に見えている。サウジアラビアは、王族による支配が行われていて、バーレーンの民主化にすら体制不安が起きているのだ。もし、イエメンで民主化が行われれば、サウジアラビアの体制はますます不安定になる。しかし、もはやサレハを支持することは自国の利益にならないのではないかと言われている。複雑な部族体制をとる国に単純に資金を流すというシステムではもはやサウジアラビアは影響力を行使できない。しかし、いろいろと反体制勢力を分析してみても、共和主義への移行しか選択肢はないことが明らかになり、サウジアラビアは自国の王朝支配を守るために、イエメンへの「影響力の維持と安定化」を守る手段があまりにも不透明となってしまった。医療支援を求めてきたサレハをこの地に戻すのか、それとも新たな体制に影響力を持つのか、サウジアラビアはイエメン政策で非常に困難な局面を迎えている。
フォーリンアフェアーズ「サウジアラビアとイエメンのジレンマ」
「トビリシの統治エリート」
ロシアの一部に「コーカサス地方」というのがある。山で隔てられた地域である。北部にはオセチアがあり、南部にはグルジア・アゼルバイジャン・アルメニアなどがある。北部のオセチアはロシアが領有しており、今まで、南部のグルジアと北部は二度、戦火にまみれている。旧ソ連時代に一度争っており、二度目はグルジアにロシア軍が介入し、グルジアは領土の20%を失ってしまった。ロシアはコーカサス地方を「18世紀以来の友人」と説明しているが、コーカサスの人々は「1801年から支配下に置かれた」と考えているのだ。二度目にグルジアがロシアと武力衝突した時に、グルジアはNATOやアメリカが「もはや助けてくれない」ということを悟り、西洋諸国よりも近くの友人を見る、という作戦に切り替えたとされる。つまり、イランであったりトルコであったりを重視し、「コーカサス連合」と銘打って、この地域の連帯を主導しているのだ。このことは端的に、北部コーカサスの人々にグルジアへの親族を訪問したり交易をしたりするのにビザを免除したことに現れた。今までは北部の人は、全く違う方向であるモスクワまで飛行機で行って、グルジアへの査証を得なければグルジアへは入れなかったのだ。それが査証免除により「数時間のドライブ」で往来が可能になった。中には、グルジアの安い車を買ってロシアで売る人まで出ている。専門家もこの政策には賛否が分かれており、「グルジアには中心になるだけの政策立案能力はない」とする人や、「いろんな民族がいる以上、すべての民族が自分たちの土地を求め始める。第二の中東になるだけだ」という人もいる。
今後の「グルジアのトビリシ統治エリート」の力量を拝見したいものである。
フォーリンアフェアーズ「トビリシからの手紙~コーカサス連合へ」
「アメリカの財政事情」
現在のアメリカの国家財政と2050年を比較してみよう。軍事予算はGDPの5%から6%に若干増えるだけだとされている。しかし、高齢者医療・障害者・低所得者医療は5%から12%に増加するとされる。つまり、アメリカの国家財政は医療保険制度の行方に左右されるのだ。いまのところ、オバマ政権は正しい方向を向いているとされている。しかし、教育への投資が医療保険制度へ向けられたため、公立大学の教員の給与が私立大学の教員の給与に比べて10%~20%低くなったことは広く知られている。アメリカの国家財政の強さは世界に影響を与える。それが、医療保険制度にかかっているのだから「福祉」もきれいごとではない。国家全体を覆う制度を作るにはアメリカにはあまりにも「リスクの高い地域・集団」と「リスクの低い地域・集団」の格差がありすぎるとされる。これが、アメリカの医療保険制度のもっとも難しい点であり、アメリカの将来だけではなく、世界に影響を与える問題となっている。
フォーリンアフェアーズ「健康保険はどのようにアメリカに影響を与えるか」
「オバマは戦争に学んでいる」
アメリカの大統領の政策決定の手法には、3つほどの選択肢を首脳が用意する方法と、さまざまな利害関係者を交えて方針を一本化する方法がある。選択肢を示す方法は、たとえば1953年にアイゼンハワーが対ソ連政策で、複数の選択肢を周囲に提示させて、急進的ではないが、敵対する方向性を示したことで知られる。この政策はその後40年間続いたわけであるから有効だったとされる。しかし、この「複数の選択肢」で政策を練り上げる手法は、最終決定に反対した人がいろんな情報をリークしてしまう弱点があるとされる。「私は異なる考えであった」ということから始まり、政策決定プロセスまでリークしてしまう人がいるのだ。逆に、コンセンサスを作り上げていく手法があるが、2006年にブッシュ大統領が何か月もかけて、対イラク政策でとった手法だ。イラクの首相の意見すら聞いている。しかし、ブッシュの方法はこの時は、さらなる追加派兵を求められることになり、あまりうまくはいかなかった。この、コンセンサスを作り上げる手法は、「サプライズ」を引き起こすことがあるとされる。自分の意見を聞いたはずなのにまったく最終決定に反映されていないではないか、という現象をいろいろな当事者に引き起こすのだ。どちらの方法もメリット・デメリットがあることが分かる。さて、オバマ大統領は、アフガニスタン政策においては2009年に政策決定を求められ、複数の選択肢を示す方法をとった。「まったく追加派兵をしない」「3万人の増派」「5万人の増派」の3つのうち、オバマは真ん中を選択している。この時に、アフガニスタンの指揮をしていたマックリスタルは「私は5万人を要求していた」といい、バイデン副大統領は「追加派兵をしないように主張した」ということをいろんなところでリークしている。このようなことをオバマはアフガニスタン戦争で目の当たりにしているのだ。さて、2011年7月に撤退を開始することになっていたアフガニスタンであるが、オバマは実は新たな思考法を採用し始めたのではないかとされている。アフガニスタンのカルザイと6月にビデオリンク式の対話を行っているのだ。オバマは戦争で学習しており今月からの撤退をどのように処理するのかが注目される。
フォーリンアフェアーズ「アフガニスタンでの合意」
「アメリカ・ヨーロッパの経済危機が中国の軍事力を強くする」
中国は、膨大なドル資産を保有しているが、アメリカが、軍事転用可能な航空宇宙技術や、その他の多目的テクノロジー技術の売却を禁じてしまった。そもそも、2008年のアメリカの経済危機は、ゼロ金利時代に、いかに有効な投資技術を生み出すかという観点から様々な技術が生み出されて、その代表例がCDSであった。しかし、これがアメリカ発の金融危機の引き金になった時に、アメリカが中国の「技術の買い漁り」を禁じたのだ。今回、2011年のヨーロッパの経済不安はギリシャで端的に表面化したが、財政危機を乗り越える手段は基本的に四つしかない。「インフレ・債務圧縮・デフォルト・デフレ」である。それぞれ複雑なメカニズムがあるがこの四つしかないのだ。中国はギリシャの国債の半分を2200億ドルで買い叩こうとしたのだ。それも、ヨーロッパに影響力をもち、ヨーロッパのさまざまな軍事転用可能な技術を買い漁ることが目的だとされる。アメリカやヨーロッパの経済不安は、中国の軍事力を強めるという思わぬ効果をもたらすという視点が存在するのだ。
フォーリンアフェアーズ「中国のヨーロッパ買い叩き」
「ノルウェーのイスラム教徒」
もともとは1960年代後半にモロッコやパキスタン、トルコなどから移民がノルウェーに来るようになったのが始まりだ。ヨーロッパ各国は国益を見据えて積極的に招いたのに対して、ノルウェーには自然に集まった。1975年にノルウェーは移民を禁止しているが、すでにいる家族との同居を求めたり政治難民などを理由に受け入れつづけ、1990年代には湾岸戦争やバルカン半島での紛争を背景にその数を増やした。イスラムそのものも多様であるが、ノルウェーでは多くが中産階級かその下に位置し、しかし、高い教育を受けることに恵まれている。10万人のイスラム教徒がおり、100のモスクがある。それぞれのマイノリティーが良好な関係を保っている。1987年には、カール一世がイスラム組織を選挙で総動員して勝利を収めるなど、政治的な存在感を示したこともあるのだ。しかし、湾岸戦争やバルカン半島での紛争などがあるたびに、ノルウェー国内でもイスラム教徒の立場は微妙なものとなっていった。9・11テロの時には「セキュリティーの問題」から、銀行の清掃員をやっていたイスラム教徒が解雇されている。ブレイヴィクは、そのような中で、反イスラムのネットコミュニティーで再三コメントをしていた。しかし、周囲の反応は「暴力はやめろ」という風潮だったという。そこで、ブレイヴィクは行動に出ている。与党労働党のユースキャンプが行われていて、イスラム居住区がある場所で多くの人を殺害している。ノルウェーの「多文化共生社会」は失敗だったのかという風潮がこの事件で生じたが、政府や議会は積極的にマイノリティーとの対話を進めていく方向を現在は向いているようだ。
フォーリンアフェアーズ「ノルウェーのイスラム教徒」
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