中古車の買い方
中古車を購入する消費者として、瑕疵・欠陥がなく、自動車としての特定の性能、品質を持つ中古車の所有権を有効に取得し、引き渡しを受けることが最も重要である。
中古車は動産であり、中古車の購入契約は、動産の売買契約としての性質を有する。動産所有のためには対抗要件が必要であるが、自動車の場合は自動車登録ファイルに登録を受けたものでなければ運行の用に供してはならないとされる。自動車の登録は、車名、型式、原動機の型式、所有者の氏名または名称及び住所、使用の本拠の位置、取得の原因を記載した申請書などを提出することによってされ、所有者の氏名などの変更があった場合は変更登録の申請をしなければならない。また、自動車は、道路運送車両法の規定に基づき自動車検査証(車検証)の交付を受けていなければ運行の用に供してはならない。(軽自動車には車検証は発行されない)車検証には所有者の氏名などを記載することになっている。自動車には抵当権を設定することができ、その対抗要件は自動車登録ファイルへの登録である。自動車の売買や抵当権の設定において、不測の損害を受けないためにも前者の所有権確認が重要である。登録された自動車の場合は、登録、車検証の内容を確認するなどし、所有権の所在を確認して取引を行うことが事務処理上重要である。登録名を確認しただけでは所有権、抵当権を取得できないこともあるが、この場合は即時取得や所有者への権利の濫用の法理で保護されることがある。中古車の購入契約は、中古車の所有権移転と代金の支払いが対価関係に立つ有償・双務契約である。中古車を購入する場合は、その価格・車の状態などが気になるが、自動車の流通については中古車市場が形成され、需要・供給を基礎とした客観的な価格が形成され、自動車専門誌などでも公表されている。
中古車は、新車と比較すると、その性状、性能、品質、走行距離、修理・事故の経歴などの個性があり、その特徴を持つ自動車として特定される特定物である。つまり特定物売買なのだ。購入者も、実際に中古車の現状を確認するなどして十分に注意する必要がある。近年は、中古車の販売にあたって6か月間の保証を提供する販売業者が一般的であるから、その保証の範囲内では無償で修理してもらえる。また、販売業者の中には故障の修理だけでなく大幅に改造を加えて様々な装備を施して販売する者もいる。このような場合は販売業者は製造物責任を負う場合もある。
ローンを利用して中古車を購入する場合には、支払方法、支払を終えるまでの所有権留保、その間の処分の禁止、期限の利益の喪失、遅延損害金、代金不払いによる自動車の返還、売買契約の解除、損害賠償額の予定、連帯保証、債権譲渡、信用情報機関への登録などが決められることになる。
中古車の販売は、購入者が現物を自動車の型式、車名、車台番号、登録番号などで確認したうえで契約を締結するものであるが、このような確認を怠ると、自動車の同一性があとで問題になることがある。自動車の引き渡し・車検証の引き渡しは契約の締結・代金の一部の支払いの時に行われるのが通常である。外観から見てわからない自動車の状態のうち重要な事項は販売業者が積極的に説明するべきであるとされ、販売業者の評判、資力などを考慮して、どの販売業者から中古車を購入するかは重要なことなのだ。
自動車の購入、保有にあたっては、消費税、自動車税などの公租公課の負担や、修理、部品の取り換えなどの負担は購入者が行うことが通常であるが、修理代の負担に関しては契約書面で明確にしておくことが求められる。中古車には自動車損害賠償責任保険がかけられているが、販売業者が有する保険を購入者が承継することになるため、費用の負担も明確にしなければならない。裁判の管轄に関しては合意で決められるが、販売業者の本店などの所在地の裁判所に管轄が認められるのが通常である。
いずれにせよ、中古車を購入する場合は、さまざまな不具合、法的な問題に直面する可能性があり、法学部の出身者としては勉強の度合いが試される時であるといっていいだろう。
法学教室1997年12月号「民法実戦ゼミナール~中古車を買う」升田純
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